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Channel: 鏡の中の雨
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通夜

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いつもトラブルメーカーの親戚が今回は音信不通と従姉妹が嘆く。
早々に切り捨てようと決め、その旨を伝える。

心が悲しみで溢れている中で
葬儀屋の淡々とした司会の中で通夜が進む。
全てお膳立てされているので指示に従い泣きながらも動く。
思考が止まっているのに進行できるようになっている。
施設長、部長、課長の姿も見えているが
喪主は、とてもじゃないが挨拶など出来ない。

世話になったヘルパー主任とヘルパーが連れ立って駆けつけてくれた。

「お世話になりました。あなた達にケアをお願いして本当に良かったです。
 母も、いつもヘルパーさんが来るのを楽しみにしていて
 最後の日まで楽しい時間を過ごせたと思います」

涙ぐむヘルパー。

坊さんの提案で折り鶴を通夜の夜に折り
告別式の御棺に入れましょうとのこと。
清めの席で、生前の母の思い出話をしながら皆で鶴を折り続ける。

末っ子の母を送る親類は認知症の叔父を含め
葬儀に出かけてくる事自体が身体的負担だった。
喪主が残れば他も残るだろう。
高齢の参列者ばかりなのを考慮し
朝まで母と共に居る事を諦め
翌日の告別式まで解散とする。

母が送る筈の親類に送られる。
早過ぎなんだよね。

母彼と母の住むマンションに引き上げ
香典の整理と葬儀参列者の名簿を作る。
香典返しは半返し。
国民健康保険から出る葬儀一時金を含めても黒字になる訳が無く
母彼が呟く。

「誕生日プレゼントは後で良いって言ってたけど
 こう言う事だったのかもね」

そうかもしれない。
母が再び舌を出しそっぽを向く姿が思い出される。

一通りのやらなければならない事は
手分けをしたお陰で一時間もかからず終わり
とりとめの無い後悔と母の思い出話しで朝を迎えないように
ネット配信での映画を一緒に見始める。
エンドロールの頃には疲労の限界が来ていた。
狙い通りの時間の過ごし方に満足し

「明日に備えてそろそろ寝ましょう」

と、床に入るが
外が明るくなりはじめるまでは眠れず
やっと眠りに入ったと思ったら
既に告別式の朝だった。


介護教室の友人は
こんな状況で実習を続け資格を取ったのか。
すごいな。
自分は介護の現場復帰すら怪しい精神状況だ。
細いのに芯が強い友人に感心しながら
喪服に袖を通した。

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